怪しい獣
今朝は天気がよく、気温も昨日までよりはちょっと高いようだ。近頃体が微妙に「地球温暖化」に慣れてきているのだろうか、気温が上がるとほっとするようなところがある。などとバチあたりな事を言ってはいけないのだが。
小学生の頃、家の近くに小さな駄菓子屋さんがあった。住宅街の一角で、入口は「林か?」と思うほど鬱蒼とした木々に覆われている。その木の下をくぐって奥まで行くと、「ゲゲゲの鬼太郎」にでも出てきそうな、半分朽ちたような店が姿を現す。
店内は今思えば単なる土間である。子供が立って商品を選ぶスペースは畳一畳分くらいしかない。その一畳分のスペースを回りから包囲するように、様々な駄菓子が並んでいる。だいたいどれも10円から20円。高くてせいぜい50円だった。
腰の曲がったおばあさんが一人でやっている店だった。さほど愛想はよくないが、といって怖くもない。淡々とした感じでる。わずか一畳のスペースに、毎日子供が溢れかえって騒いでいる状況を考えれば、あの対応がベストだったのだろう。
私や私の友達は、お菓子はあまり買わなかった。目当ては「怪獣カード」と呼ばれていたもの。最初に誰が考えたのかわからないのだが、「怪しい獣」と書いて「怪獣」と読むネーミングは今でもよくぞ考えたものだと思っている。
で、怪獣カード。
水色の、絵ハガキ大の袋の中にそれが一枚入っている。それが片隅に千枚通しで開けられた穴によって何十枚も束になってぶら下がっている。おばあさんに10円を払うと、その中の一枚を引っ張って取れるシステム。だが、袋を開けるまでは中身はわからない。
中に入っているのは、ゴジラやガメラといった怪獣映画のスチール写真を複写したものだった。スチールとは、最近はシネコン等ではあまり見かけなくなったが、映画館のショーケースの中に貼られていた、上映中の映画の名場面を写真にしたものである。
私「あ……モスラが出ちゃった。外れだ。しかも幼虫……」
友達「俺、カマキラス。ちぇっ」
友達「えー?俺、ミニラだよ。なんだあー」
何の会話かさっぱりわからない方もいるだろう。怪獣は全般的に男子が大好きなアイテムだったが、人気のある怪獣とそうでないのがいるという事。上の会話は、子供たちにとっては外れ、つまり人気のない怪獣ばかりだった。
例えば、当たりの場合はこうなる。
私「やった!ゴジラだ!」
友達「俺も当たり!すげー!キングギドラだ!」
ちょっと変わり種の当たりもあって、
友達「おーっ!やっと引けた!海底軍艦だっ!」
私たち「すげー。海底軍艦かっこいーっ」
友達「あの艦長ってさ、神宮寺大佐って言うんだよな」
私「そう。海底軍艦のほんとの名前は『轟天』。敵はムー帝国」
となる。
その後は、みんなで自転車を漕いで家に帰る途中、重厚な海底軍艦のマーチを歌うのだ。
ある日曜日の午後。
相も変わらず10円を払って怪獣カードを引いていると、おばあさんが言った。
おばあさん「みんな、すぐに家に帰った方がいいよ」
私たち「?」
おばあさん「今日ね、2時からテレビで『ゴジラ』をやるって。一番最初の『ゴジラ』」
私たち「え!」
他のゴジラ映画はテレビや映画館で何本も見ていた。だが、第一作のゴジラをちゃんと見たコはいなかった昭和40年代。モノクロの第一作が作られたのは昭和20年代。この時点で既に20年近い歳月が流れていて、テレビでも第一作は滅多に放送されなかった。子供たちはみんな見たいとは思っていたが、既に「伝説のゴジラ映画」になっていたのだった。
私たち「大変だっ!」
全然大変ではない。単に「ゴジラ」がもうすぐ放送されるというだけの話。だが、少年たちは各々の自転車に飛び乗ると、駄菓子屋さんから放射状に、しかも全速力で去った。
とにかく最初から全部見たい。だが、おばあさんが教えてくれた時は既に2時近く。「足がちぎれてもかまわない」くらいの勢いで、自転車のペダルを全力でこいだ。
家に駆け込み、テレビに激突しそうな勢いでスイッチを入れると、間一髪で間に合った。
『ゴジラ』
重苦しい音楽とともに、あの有名なタイトルロゴが現れ、映画の放送が始まった。
それから夕暮れ近くまで、まばたきをするのももったいないくらい、息をつめて初代ゴジラを見た。夜の銀座を放射能を吐きながら蹂躙していくゴジラは、何だか巨大な幻でも見ているかのような、極めて幻想的な「怪獣」だった。
翌朝、学校に向う途中の集団登校の列では、何人もの男子が「がおー」っと吠え、ゴジラの真似をしてのしのしと歩いた。お蔭で、列がなかなか前に進まない。上級生の女の子たちが、「ちょっと男子!早く歩いてよ!」などと怒っている。
何日かしてみんなで例の駄菓子屋さんに行くと、おばあさんはどことなく自慢げだった。確かにそうで、彼女が教えてくれなければ、私たちは「銀座の幻」を見逃していたのだから。
と……。
怪獣カードの量がいつもの倍近くに増えている。
そしておばあさんが言った。
おばあさん「今日は特別に2枚で15円だよ。4枚で30円」
みんないつもは一枚しか買わないのだが、初代ゴジラの興奮冷めやらない中、この日は誰もが30円で4枚買った。怪獣カードは飛ぶように売れた。
その光景を勝ち誇ったように見ているおばあさん。
「老婆然」とした見た目と違って、意外に商売上手なのでした。
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コメント
近所に三軒あった駄菓子屋さんは全滅です。
そりゃそうか、40年も前に、商っていた人達は皆老人だったのだから…。
怪獣のブロマイドはかなり集めました。
ウルトラマンのヤツでした。ラゴンばかり出たのを覚えています。
投稿: すなぽん | 2008年11月 6日 (木) 17時00分
すなぽんさん、コメントありがとうございます。
ラゴンばっかりですか。そりゃ厳しい!(わかる人にだけわかる笑い)
投稿: パパ | 2008年11月 6日 (木) 17時10分
幼少時すでに偽装少年だった私は、怪獣は一応押さえてる程度、怪獣カードは集めていませんでした。でも駄菓子屋は大好きで毎日のように通ってました。
幼稚園時代はマブチ小学校時代はムツウラ、多分そこのうちの苗字であろう店名もはっきり憶えています。
主に5円のくじを引いてました。
投稿: まな | 2008年11月 7日 (金) 21時39分
まなさん、コメントありがとうございます。
皆さん、結構駄菓子屋の記憶ってあるもんなんですね。「菓子」の前に「駄」がつくあたりが、子供心を刺激したんでしょうか……。なにしろ安かったし。
投稿: パパ | 2008年11月 8日 (土) 07時14分