白い恐怖
前にちょこっと書いたが、私はとにかく牛乳が嫌いだ。
アレルギーでも何でもない。何といってもあの味がまるでダメで、一口飲んだ時点で全身に悪寒が走る。
実家の親の証言によれば、わずか2歳ほどの、まだヨチヨチ歩きの頃、三時のおやつに牛乳を与えたところ、親がちょっと部屋を出た隙に窓から庭へじゃーっと牛乳を捨てていたらしい。それほど嫌いなのだ。
子供の頃はそのせいで、我が家の夕飯は時折私だけ別メニューになる事があった。特にクリーム・シチュー。あれはシチューの素のような市販品をスーパーで買ってきて、牛乳と混ぜて作る。
私「牛乳の味がする!食べられない!」
だが家族は牛乳入りのを食べたい。そこで、私だけ先に「ノン・ミルク」のやけにしょっぱいシチューを作ってもらい、その後皆に牛乳入りのを作る。しょっぱくてあまりおいしくなかったが、牛乳の味がするよりマシ。
幼稚園と小学校では、給食の時に当然のように牛乳が出た。両方合わせて8年間、仕方なく死ぬ思いで飲んだ。飲まないと、皆が帰った後に一人だけ残されて、廊下に正座させられ、目の前に牛乳を置かれて、「飲むまで帰ってはいけません」と先生に言われるからだ。今だったら何だか問題になりそうな光景だが、当時は「好き嫌いをする方が悪い」と問答無用だった。
中学校に入ったら給食ではなく弁当になった。私はようやく地獄から解放されて喜んだ。
ところが……。
弁当持参なのに何故か毎日牛乳だけは出る。
私「うそだろー……」
あの時の落胆は大きかった。ただ、中学生になると先生もさすがに正座まではさせないし、悪知恵も働くようになるので、牛乳大好き同級生にこっそりあげていた。
高校も弁当だった。しかも、今度は牛乳は出てこない。
私「やったーっ!」
こうしてようやく私は晴れて白い恐怖から(オフィシャルに)解放されたのだ。以来、多分一度も口にしていない。
ある時、タモリさんがテレビで言っていた。あの人も牛乳が苦手らしい。
タモリ「何であんなもんを飲むかねぇ。だって『牛の乳』だよ?」
私「(テレビに向って)その通り!いいぞ!言ったれ言ったれ!」
だがしばらくしたある日、私はひどいメにあった。
アルフレッド・ヒッチコックというイギリス人の名監督がいらっしゃる。「サスペンスの神」と言われた人で、数々の名作サスペンス映画を撮った。「北北西に進路をとれ」「鳥」「裏窓」「サイコ」などなど。ほんとに神のような監督さん。
その監督が撮った古い映画がリバイバル公開された。モノクロ映画でタイトルは「白い恐怖」。若い頃のひょろひょろと痩せていたグレゴリー・ペックが主演。「ローマの休日」よりもっと前の映画。
私は勇んで観にいった。子供の頃のある事件がトラウマとなり、精神疾患になった若者を巡るサスペンスである。美術デザインをあの有名なダリが手がけていたりもする。
と……。
私はあるシーンで正に「白い恐怖」を味わった。
グレゴリー・ペックが、透明なガラスのコップに並々と注がれた牛乳を飲むシーンが出てくる。それだけなら自分が飲む訳ではないし、映画の画面の中の出来事だから何ほどの事もない。
だが、サスペンスの神はそこでとんでもない演出をした。
カメラがコップに密着するように設定されている。実際は映画のカメラのレンズと同じ大きさのコップなんてないと思うので、あれは特撮だと思うのだが、とにかく神はコップの入口を画面いっぱいに大写しにした。
劇場の大画面を圧するように、画面の手前に向って白い液体が洪水のように流れてくるのだ。すると、ペックの向い側に精神科医がいて、彼の姿が、牛乳が減るにつれてその向こう側にだんだん見えてくるという演出である。
私は驚愕すると同時に、途中でほんとに気持悪くなった。画面いっぱいの牛乳の海である。その先にはあろう事か牛乳の水平線のようなものまである。その白い牛乳が、津波のようにこっちに向って流れてくるのだ。
そのシーンが終わるまでの間、私はギュッと目をつぶった。ホラー映画の恐いシーンでそうする人が時々いるが、牛乳で目をつぶる観客はそうはいないはずだ。
時々チラッと目を開けて確認する。だが、白い液体はまだ流れている。また目をつぶる。チラッと見る。寒気がしてまた目を閉じる。
神の超絶演出に悶絶してしまった私でした。
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コメント
小学生の頃、給食が食べ切れず、頻繁に放課後までのこされたものです。
さすがに廊下に正座させられたりは無かったですけど、午後の授業中も放課後になっても、食べ尽くすまで机の上に給食が置いてありました。食べないと帰れません。
帰る頃には、すっかり陽が沈んでしまったこともありました。辛かったなぁ。
投稿: すなぽん | 2008年11月 8日 (土) 22時34分
すなぽんさん、コメントありがとうございます。
そうですか、正座はありませんでしたか……。
にしても、当時モンスター・ペアレンツがいなくてよかったと思います。
それとは別に、「白い恐怖」は今でもよくできた映画だと思っています。ちょっと時代が早過ぎたのかもしれませんが。
投稿: パパ | 2008年11月 9日 (日) 09時56分
こんにちは~、通りすがりの者です。
同じヒッチコック作品の「断崖」では、不気味なほどに「白すぎるミルク」を表現するため、ミルクに電球を入れて光らせながら撮影したんですよね~。
牛乳こえ~ガク((゚゚дд゚゚ ))ブル!!
投稿: つるたこ | 2008年11月11日 (火) 17時33分
つるたこさん、コメントありがとうございます。
そうですか、神様は牛乳に電球を入れましたか!
そのまま電球の熱で蒸発してなくなってしまえばいいのに(笑)。
投稿: パパ | 2008年11月11日 (火) 17時44分