最後に来るもの
寒い……。空も分厚い雲に覆われている。今日は一日バタバタと忙しい予定になっていて、今日じゅうの締切の原稿を早起きして書き終えたところである。
「レース映画」というジャンルがある。古くはジョン・フランケンハイマー監督の「グラン・プリ」(モナコGPが題材だった)、最近といっても結構古くなってしまったが、トム・クルーズが出た「デイズ・オブ・サンダー」などがそれに当たる。「ミッシェル・バイヨン」というのもあった。最近では、「ワイルド・スピード」のシリーズとか、どちらかというと公道の走り屋たちの話が増えたが(私も去年そういう映画の脚本を書いた)、今ここで言うのはあくまでレース用のコースで行われるオフィシャルなものを題材にしたジャンルをさす。
スティーブ・マックイーンが出演した「栄光のル・マン」という映画をご存じだろうか。
これは、毎年フランスで行われる24時間耐久レースの映画だった。マックイーンはアメリカ・チームのレーサーで、搭乗したのはポルシェである。
様々なご意見があろうかと思うが、私はこの「栄光のル・マン」がレース映画の最高峰だと思っている。
公開当時、この映画は「セミ・ドキュメント」と呼ばれた。ドキュメントではないが、かといって普通の映画のように劇的な展開がある訳でもない。フィクションの映画とドキュメントの中間といった意味合いだった。
マックィーンが自ら主宰していたソーラー・プロというのがあり、この映画はそのプロダクションによって製作された。実際の24時間耐久レースに大量のカメラを持ち込み、ありとあらゆる角度からそのディティールを描写していく。そこにマックィーン演じる、ちょっと老けて引退間近のレーサーが絡んでくるというものだった。車好きだったマックィーンが、事実上自らプロデュースしたに等しい作品である。
何台ものマシンが一斉にスタートするシーンが素晴らしい。その緊張感は、何台ものカメラで狙った様々なアングルの素材と、編集の妙によるものだが、これから長い24時間が始まるという盛り上げが絶妙である。
高速で疾走する車を捉える数々のショットも、スピード感だけではなく絵のように美しい。私は勝手に思っているのだが、テレビの自動車のCMがいつの頃からか「美」を追及するようになったのは、この映画が発端なのではないだろうか。
それほど美しい。
だが……。
わざわざこの映画を取り上げたのには訳がある。ラストシーンがあまりに素晴らしいからだ。
以下、これからこの映画をご覧なる方は、ネタバレがありますのでご注意下さい。既に見た方、「それでもオッケー」という方はぜひ。
マックィーン演じるレーサーは、そろそろ年をとり、引退を考えなければならない時期に来ている。一方、彼のライバルと言われているもう一人のレーサー(こちらはフェラーリ)がいる。二人とも、「優勝争いがこの二人になるのは確実」とマスコミから騒がれている実力派。そしてライバルの彼もまた、決して若くはない。
20数時間の耐久レースもいよいよ大詰め。優賞争いは予想通りこの二人に絞られてくる。だが、そこに、若手の生きのいいレーサーが割って入り、三台のマシンが三つ巴の戦いを演じる事になる。
そして……。
何と、マックィーンとそのライバルは、わすがの差でその若手レーサーに敗れてしまうのだ。つまり、二位と三位。
会場は若手の快挙に湧き返り、大歓声がレーサーやコクピットクルーたちを包む。
表彰台に上った若手は満面の笑みでシャンパンを振りまく。
表彰台に駆け付けていく歓喜の人々。
その人ごみの中、マックィーンとそのライバルは、かなり離れた距離で互いを確認し合う。
そして、二人ともうっすらと苦笑いするのだ。
「負けたな……」「まあ、こういう時もあるさ……」という無言の会話。
カメラはそこから、会場の全景が見える空までクレーンで上昇していくという幕切れ。
最近の映画では、こういうラストをあまり見かけなくなった。今作ったとして、ラストでトム・クルーズがこうやって苦笑いする映画などはまず作れない。ハッピーエンドではないからだ。例えば私がそういう幕切れの脚本を書いたとしたら、プロデューサーに「寝ボケるな」と言われるのは間違いない。
だが、例えハッピーエンドではないとしても、あの「二位と三位の苦笑い」のショットは何度見ても素晴らしい。負けたにも関わらず爽やかな風が吹き抜けるようなのだ。
確かに、ただ暗いだけで終わるのはいただけないが、だからといって無理にハッピーエンドにする必要もないと思う。そこに見終わった後の爽快感さえあればよいのではないかと思うのだ。
映画の最後に来る最も大事なものは、見終わった充実感やそ爽快感なのであって、それは、ヒーローの勝ち負けとは別の次元なのではないかと、常日頃思っている私。
最も、そう簡単にはいかないのもまた、この仕事の難しいところではあるのだが……。
| 固定リンク
「脚本家の仕事」カテゴリの記事
- 不思議な仕事(2009.05.19)
- 気合を入れる(2009.04.14)
- ラボラトリー(2009.04.08)
- ジャパニーズ、プリーズ(2009.03.27)
- オーラについて(2009.02.08)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/524639/43295679
この記事へのトラックバック一覧です: 最後に来るもの:


コメント
こんなことを書くと面倒臭がられるかもしれないけど……
映画にはPhilosophyが必要だと思うんですよねー、最近。
「哲学」って訳すとかたーくなっちゃうのですが、映画全体、特にラストに作り手側が何をこめるかってすごく大切な気がして。
ハッピーエンドでなくてもいいんですー。
「ル・マン」で言えば、マックイーンももう一人も、かつては先輩レーサーを負かした側であり、精一杯やった結果、今回は負けて、人生ってものの流れを感じるとともに、それでも、またやってやるさ的な決してまだ諦めてはいないんじゃないかなーって、感じさせてくれる一瞬。
素晴らしいですー!
さすが私の初恋の人♪
投稿: つま | 2008年12月 2日 (火) 09時54分
まったく同感です、ラストが素晴らしい!!
中学生の時にサントラEP盤を買いました。その時はまだ映画自体は見ていませんでした。見たいなぁと思いながらサントラを繰り返し聞いていました。そして、見る機会に恵まれないまま30年、やっと5年前に機会がめぐってきました。DVD化のお陰です。
まったく、あの締めくくりには感銘を受けました。ラストがそれまでのドラマに対し掛算となって、一挙に作品全体が膨らみ、深みを増したように思います。<突き抜けた>って事でしょう。過小評価されている作品だと思いました。
投稿: すなぽん | 2008年12月 2日 (火) 10時09分
つまへ。
その通りだと思います。
ただ、ハッピーエンドでない以上、それを納得させてさらに充実感を表現するしかないと思うのですが。
にしてもあの映画のマックィーンはかっこいいよね。
投稿: パパ | 2008年12月 2日 (火) 11時13分
すなぽんさん、コメントありがとうございます。
私は実にラッキーな事に、前に書いた「新宿ローヤル劇場」で見る事ができました。
中学生ながら、事の他感激した印象が残っています。
ミッシェル・ルグランのテーマ曲も素晴らしいすね。今でも時々口ずさんでいます。
投稿: パパ | 2008年12月 2日 (火) 11時16分
はじめまして。
この数日拝見させてもらってます。
十川さんの作品で(アニメ)で感動をもらいました。
「逮捕」の劇場版
待ったかいがありました。といった感じで、
とても興奮したのを思い出しました。
LD買って何回も見ました。
「交渉人 真下正義」
めったに普通の映画は見ないのですが映画館で見ました。
これまた興奮して続編の期待をしながら帰りました。
「BLEACH」の劇場版。
最後のカットでやられました。
その前までギリギリ我慢できたのですが、
最後で泣きました。
全部映画館で見ました。
いい年した親父なんですが、アニメもいいです。
いい時代になりました。
スタッフの方にこういう形ですが、
直接、気持ちを伝えることができること。
これからのご活躍を期待してます。
つたない文章ですませんでした。
追伸
「逮捕」の劇場版、新作でもう一回観たいです。
投稿: べんとうころころ | 2008年12月 2日 (火) 22時38分
べんとうころころさん、コメントありがとうございます。
様々な作品、映画館まで足を運んでくださってありがとうございました。
アニメの脚本を書き始めて今年で20年が経ちましたが、劇場作品の仕事は案外回ってこないもので、私も劇場用アニメは数本しか書いた事がありません。
ですが、また回ってきたら、皆さんに喜んでいただけるように全力で書きたいと思っています。
今後ともよろしくお願いします。
投稿: パパ | 2008年12月 3日 (水) 11時28分
レース映画と言えばどうしたってこれ!
マックイーンってホントかっこいいアメリカ人!アメリカ人のかっこよさを象徴する人でした。
投稿: まな | 2008年12月 3日 (水) 13時19分
まなさん、コメントありがとうございます。
マックィーン、いまだに人気ありますよね。
「ゲッタウェイ」なんかは、多分通算すると100回は見ています。
投稿: パパ | 2008年12月 3日 (水) 14時14分